デジタル痴漢にあった
最近、デジタル痴漢というものがはやっている。
代表的なものに、AppleのデバイスであるMacやiPhone同士でかんたんにファイル共有ができるAirdropを悪用して卑猥な画像を送り付けるというものがあるのだとか。
私もiPhoneを使っているが、Airdropは必要なときにしかONにしないようにしているし、iPhoneにつけている名前では性別の判断がつかないのでAirdrop痴漢にあうことはないと思う。
しかし、デジタル痴漢はAirdropだけではなかった。
ついに私もデジタル痴漢に遭遇したのだ。
用事を済ませ帰宅しようと21時頃に家に向かって歩いていたところ、向こうから自転車に乗った男が走ってきた。
スマホをいじりながら自転車に乗っていて危ないな、と思っていたのだが、何かおかしい。
画面がこちらを向いていた。
何してんだこいつと思いながら歩き、距離が近づく。
すると男はスマホをよりこちらに近づけ見せてきた。
見てしまった私も私だが、その男はまさにデジタル痴漢オブデジタル痴漢。
パンパンにふくれあがったマツタケのようなsomethingが画面には映し出されていた。
somethingとか書いているが、それはもう完全にソレでアレ。
けっこうピンクだった。
ピンクのマツタケだった。
思わず体が固まり、なぜかガン見してしまったわけだが、男は何事もなかったかのようにすーっと走り去って行ってしまった。
私も2X年生きてきているので、別にマツタケを見るのが初めてとかそういうことはないのだが、いろいろな気持ちが湧いた。
「え、マジか」
「あれ(マツタケ)自分のかな」
「ていうかスマホiPhoneXsMaxじゃなかった?」
「デカデカと映すためにMax買ったのかな」
「まだ21時なのに...」
「堂々としすぎじゃね」
「Maxを?そのために?」
...
なんというか、デジタル痴漢に遭遇してしまったということは、軽微ながらも性犯罪に遭ったということで、そんなこと言ってる場合じゃないのは分かっているのだが…
正直、すげぇと思った。
感心した。
ギンギンになったピンクのマツタケを女に見せつけるためだけに、最低でも13万円くらいはするiPhoneXsMaxをあの男は買っていたのだ。
たったそれだけのために、13万円だ。
13万円といったら、庶民にしてみたら大金だろう。
少なくとも私のような2X歳の平凡な若造にとってみたら、大金だ。
家賃を払って、光熱費を払って、ちょっとおいしいご飯を食べに行っても、まだ余る。
上野に行って動物園と美術館をめぐっても、まだ余る。
私は服も化粧品も安物なので、きっと買える。そして余る。
私が1ヶ月暮らして遊ぶのに必要なお金を、あの男はデジタル痴漢をするためだけに費やしていたのだ。
その熱意にはもはや頭が下がる気持ちだ。
当然、痴漢は悪いことだ。
許されないし、犯罪だ。
女性だけでなく、男性にも被害者はいるだろうし、悔しい思いをして、それでも言い出せなくて黙っている人も多いだろう。
最低で卑劣な行為である。
私も昔は電車の中でアナログ痴漢にあったことが何度もあった。
声は出なくなるし、恐怖で体は動かなくなる。
私の場合は髪を明るくして、ピアスを片耳に3個以上つけるようになってからアナログ痴漢には遭わなくなったが...。
...
私も含め被害に遭われている方もたくさんいるのは承知の上だが、それでもすごいと思ってしまったのだ。
これが普通のスマホとか、あるいは単なる露出狂とかだったらなんとも思ってない、というか普通に痴漢にあってしまった、と思っているだろう。
しかし、彼が持っていたのはiPhoneXsMaxだ。
何か一つのことをするために、13万円というお金をつぎこめるだろうか。
(スマホだから普段は普通に使っているのだろうけど...)
何かのためにお金を使うということは素晴らしいことだと私は思う。
お金をつぎ込んで後戻りができない状況を作り出すことで、人はなにかに取り組むようになるというのを聞いたことがある。
思えば私はなにかに一生懸命になったことがあるだろうか。
小さい頃にはいろいろ習い事をやらせてもらったように思うが、いずれも続かなかった。
勉強にも身が入っていたこともなかったし、専門的な大学に進んだが、特に続いたことは無かった。
好きな人に告白できたこともなかったし、付き合ってみても相手のために努力することもできなかった。
仕事だって生活のためにやっているだけで、庭から石油が出たら毎日ゴロゴロして過ごすに決まってる。
なんて私は怠惰な人間なのだろうか…。
まさか痴漢に自分の人生を省みるきっかけを与えられるとは思ってなかった。
熱意は大切だ。
生きる理由になる。
今の私はぬるま湯に浸かっているんじゃないか、そう思った。
彼の熱意がもっと別のところに向かうことを祈るばかりだ。
※痴漢は犯罪です。遭遇したら警察に連絡を。